//大丈夫、おまえは素晴らしいんだから

大丈夫、おまえは素晴らしいんだから

ネット動画でも話題になった本があります。

 

野口義則・著「僕を支えた母の言葉」です。

これは実話だそうですが、一部抜粋してご紹介します。

 

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僕が3歳のとき、父が亡くなり、その後は母が女手ひとつで僕を育ててくれた。

仕事から帰ってきた母は疲れた顔も見せずに晩ご飯をつくり、食事の後は内職をしていた。

毎晩遅くまでやっていた。

母が頑張ってくれていることはよく分かっていた。

だけど、僕には不満もいっぱいあった。

 

(中略)

 

僕はいつしか母にきつく当たるようになった。

「おい」とか「うるせー」とか生意気な言葉を吐いた。

「ばばあ」と呼んだこともあった。

 

それでも母は、こんな僕のために頑張って働いてくれた。

そして、僕にはいつも優しかった。

小学校6年のとき、初めて運動会に来てくれた。

運動神経が鈍い僕はかけっこでビリだった。

悔しかった。

 

家に帰って母はこう言った。

「かけっこの順番なんて気にしなくていいよ。おまえは素晴らしいんだから」

だけど、僕の悔しさはちっともおさまらなかった。

 

僕は学校の勉強も苦手だった。

成績も最悪。

自分でも劣等感を感じていた。

 

だけど、母はテストの点や通知表を見るたびにやっぱりこう言った。

「大丈夫、おまえは素晴らしいんだから」

僕には何の説得力も感じられなかった。

 

(中略)

 

僕は中学2年生になったころから、仲間たちとタバコを吸うようになった。

他の学校の生徒とケンカもした。

 

(中略)

 

僕は校内で、ちょっとした事件を起こした。

母は仕事を抜けて学校にやってきて、いつものように謝っていた。

 

教頭先生が言った。

「お子さんがこんなに悪い子になったのは、ご家庭にも原因があるのではないでしょうか」

 

その瞬間、穏やかな母の表情が変わった。

 

「更生は心から信じてあげることから始まる」

 

母は明らかに怒った眼で、教頭先生をにらみつけきっぱりと言った。

 

「この子は悪い子ではありません」

 

その迫力に驚いた教頭先生は言葉を失った。

 

母は続けた。

「この子のやったことは間違っています。親の私にも責任があります。

ですが、この子は悪い子ではありません」

僕は思い切りビンタを喰らったような、そんな衝撃を受けた。

僕はわいてくる涙を抑えるのに必死だった。

母はこんな僕のことを本当に素晴らしい人間だと思ってくれていたんだ・・・

 

あとで隠れて、ひとりで泣いた。

 

翌日からはタバコをやめた。

ケンカもやめた。

仲間たちからも抜けた。

その後、中学校を卒業した僕は高校に入ったが肌が合わなくて中退した。

そして仕事に就いた。

そのときも母はこう言ってくれた。

「大丈夫、おまえは素晴らしいんだから」

 

僕は心に誓った。

「これから僕が頑張って、母さんに楽してもらうぞ」

だけど、なかなか仕事を覚えられなくてよく怒鳴られた。

 

(中略)

 

怒鳴られるたびに落ち込んだけど、そんなとき、僕の心には母の声が聞こえてきた。

「大丈夫、おまえは素晴らしいんだから」

この言葉を何度もかみしめた。

 

そうすると、元気がわいてきた。勇気もわいてきた。

「いつかきっと、僕自身の素晴らしさを証明して母さんに見せたい」

そう考えると僕はどこまでも頑張れた。

 

仕事を初めて半年くらい経った時のことだ。

 

仕事を終えて帰ろうとしていたら、社長がとんできて言った。

「お母さんが事故に遭われたそうだ。すぐに病院に行きなさい」

病院に着いた時、母の顔には既に白い布がかかっていた。

僕はわけがわからなくて、何度も「母さん、母さん!」と叫びながら、ただただ泣き続けた。

 

(中略)

 

葬式の後で、親戚から聞いた。

母が実の母でなかったことを。

実母は僕を産んだときに亡くなったらしい。

母は、そのことをいつか僕に言うつもりだったのだろう。

もしそうなったら僕はこう伝えたかった。

 

「血はつながっていなくても、お母さんは僕のお母さんだよ」

 

あれから月日が流れ、僕は35歳になった。

今、改めて母にメッセージを送りたい。

 

(中略)

 

あれから、僕なりに成長し、僕は結婚して、子供もいるよ。

規模は小さいけど、会社の社長になって社員たちと楽しくやっているよ。

 

まだまだ未熟な僕だけど、僕なりに成長してきたと思う。

その成長した姿を、母さんに見てもらいたかったよ。

 

「おまえは素晴らしい」って言ってくれた母さん。

 

その言葉は間違っていなかったっていう証拠を見せたかった。

そして、それを見せられなかったことが残念でならなかった。

 

だけど、最近気づいたんだ。

母さんは、最初から僕の素晴らしさを見てくれてたんだよね。

証拠なんてなくても、心の目で、ちゃんと見てくれてたんだよね。

 

だって、母さんが「おまえは素晴らしいんだから」って言うときは、まったく迷いがなかったから。

母さんの顔は確信に満ちていたから。

 

(中略)

 

大好きな母さん。

居る時に限って「ありがとう」って伝えることが出来なくて。

 

母さんに伝えられなかった「ありがとう」を自分の大切な全ての人に、

優しさとして伝えていきたいと思います。

 

野口義則・著「僕を支えた母の言葉」より